2019年の1月、東京でバンクシーらしきネズミの作品が発見された。そして、小池百合子都知事がこの作品をツイートしたことで日本中にバンクシーの名前が拡がった。
東京のネズミの発見で、アートに興味のない人までもバンクシーの名前を知ることになった。
日本、海外を問わず「バンクシーといえば、ネズミ」という印象を持っている人も多い。実際、バンクシーはネズミをモチーフにした作品を活動初期の頃から数多く生み出している。
バンクシーはなぜネズミをモチーフに使うのか?
バンクシーは自身の公式作品集「Wall and Piece」でこんなメッセージを残している。
ネズミは許可なしに存在し、嫌われ、捕まえられ、迫害される。ネズミは静かなる絶望の中、汚物の中で暮らしている。しかし、ネズミは全文明をひれ伏す力さえ持っている。 もしあなたが汚くて、必要とされてなくて、愛されてないと思うなら、ネズミは最高のロールモデルかも知れない。
ここでは、社会の隅に追いやられた人間とネズミの存在を重ね合わせることで、観る者が自然と自分に置き換えやすくなる。バンクシーはネズミを自身の作品のモチーフに取り入れることで、メッセージを代弁させているのかも知れない。
この記事では、バンクシーのネズミ作品を代表する2つの作品を紹介したい。
Love Rat ラブラット
Love Ratは最初、2004年にロンドンのリバプールストリートに壁画として登場。その後、同じ2004年にシルクスクリーン作品として発売。サインなし(Unsigned)が限定600枚、サイン入り(Signed)が限定150枚だった。
Love Rat の意味とは
赤いペイントの付いた筆を抱えたネズミ。ネズミが壁に描いたハートマークからは、ペイントがじゅわっと垂れている。一見、ネズミがこの作品を観るものに愛を広めようとしているように見える。しかし、見方を少し変えると、ハート(心)から血が出ているようにも見える。
この作品は「愛は痛みや苦痛を伴うもの」と伝えようとしているのかもしれない。もしくは、愛は「嬉しくて、楽しい」ものだと伝えようとしているのかもしれない。
「名作は観るものに色んなメッセージを与えるものだ」とよく聞くが、この作品からは、シンプルなのに本当に色んなメッセージが受け取れる。
Gangsta Rat ギャングスターラット
Gangsta Ratは2004年にエディション作品として発売。サインなしが限定350枚、サイン入りが限定150枚。
その他、背景のスプレーペイントの色が違うオレンジ、ピンク、ブルー、グレー、グリーン、ミントグリーンなどのAPバージョンが発売されている。
Gangsta Ratに描かれたのは...
作品のネズミはラジカセを前に置き、首にチェーンのネックレスを付けている。さらに、ニューヨークメッツのキャップを被っている。これは80、90年代のNYCのアンダーグラウンドシーンを思わせるスタイルだ。
また、ネズミの後ろの壁には赤いスプレーペイントで「iPOW」と描かれている。「i」はiPhoneやiPodなどアップル製品を想起させる。そして「POW」はバンクシーの作品を発売していたギャラリー「Pictures on Walls」の事だろう。
この作品の意味とは
正直、この作品の意味は分かりづらい。
しかし、一般に馴染み深い要素を多くはめ込むことでこのネズミが新しいキャラクターのようになっている。例えば、ディズニーのミッキーマウス。または、ピーナッツのスヌーピー。カウズのコンパニオンのように、バンクシーの「Gangsta Rat」もある意味キャラクター化している。
バンクシーは特徴的なモチーフをベースに作品を作る。例えば、ネズミ、スマイリー、サルなどが代表的だ。これらのモチーフで継続的に作品を制作することで「これがバンクシーの作品だ」と一瞬でわかるようになる。
このスタイルこそ、物や情報に溢れた21世紀にぴったり合っている。
Gangsta Rat オリジナルキャンバス
上の画像が「バンクシーって誰?展」に展示されていた作品だ。こちらはバンクシーがステンシルとハンドスプレーペイントで仕上げたオリジナル作品。エディション作品とは違い、背景がフリーハンドのスプレーペイントに変わっている。
最近のネズミ作品で言うと、バンクシーは2020年、コロナ禍のネズミを描いた。2021年もコロナ禍でサマーバケーションを取るネズミを描いた。しかし、今の所、それ以降のネズミ作品はまだない。今後どんな新しいネズミの作品が生まれるか楽しみだ。