バンクシーの作品の中で最も有名なのが「Girl with Balloon」(風船と少女)だ。
邦題では「風船と少女」と呼ばれている。また、この作品は「Girl with Red Balloon」...「Girl and Balloon」とも呼ばれることもある。それだけ世界中のあちこちで注目され、人気も高い作品ということなのだろう。
こちらは、2分でまとめた「風船と少女」の動画だ。
オリジナルのGirl with Balloon(風船と少女)ははじめ、テムズ川沿いにスプレーペイントされた
「Girl with Balloon」は2002年、ロンドン南部のエリア「サウスバンク」のテムズ川沿いにある階段の壁に登場した。現在は市の職員によって塗り直されてしまっている。なので、この壁画はもう存在しない。作品の寿命が短いのもバンクシーの魅力の1つだ。
作品に描かれたのは...
突風により少女の手元から離れて行くハートの形をした風船。そして、その風船を捕まえようと手を伸ばす少女。少女の風船は真っ赤に塗られている。また、後の階段付近には「THERE IS ALWAYS HOPE」(希望はいつもある)というメッセージが添えられている。
ハート型の風船は「愛」の象徴とも言える。人が生きる上で根元となるものが「愛、思いやり」だ。でも、愛を失くしてしまうと、人はすべてを失いかねない。
幼い頃には持っていたはずの純粋な心や愛する気持ち。それをもう一度、取り戻そうとしているのか。 それとも、大切にしていたものが手から離れて行ってしまったのか... または、希望を掴もうとしているのか... 見るたびに以前に観た時とは違った感情が生まれる、印象的な作品だ。
名作は観るものに色んなメッセージを与える。
と言われるが、プラスにもマイナスに意味にも取れる、シンプルだけど、奥深い作品だ。
古典的な額装も似合う「Girl with Balloon」
ペーパー作品としての「Girl with Balloon」は2004〜2005年の間にPictures on Walls(以下POW)からシルクスクリーン印刷で発売された。サイン入り(Signed)が限定150枚。サインなし(Unsigned)が限定600枚。合計750枚が発売された。
また、風船の色が違うカラーバリエーションやオリジナルキャンバス。錆びた鉄板にスプレー。などなど、様々なバージョンの「Girl with Balloon」が存在する。
風船の色が(金) ゴールドの「Girl with Balloon Gold」
上の画像の作品は、風船の色がゴールドになっている。他には、パープルの風船などバージョンもある。
錆びた鉄にステンシルスプレーされた Girl with Balloon
キャンバスや紙だけでなく、上の画像の作品のように廃材を使ったものもある。
「Girl with Balloon」から派生した作品や事件
バンクシーの代表的作品とも言える「Girl with Balloon」をベースに、新しい作品や事件、パフォーマンスが発信されてきた。
例えば、2005年のパレスチナで誕生したこの作品↓
Balloon Debate, 2005
2005年、バンクシーは「Girl with Balloon」の延長線上に壁画「Balloon Debate」をパレスチナとイスラエルを隔てる分離壁に残した。
壁にはたくさんの風船に掴まり、今まさに分離壁を越えて飛んで行く少女の姿がステンシルスプレーで描かれている。
この作品を残した後、バンクシーは次のようなメッセージを残した。
イスラエル政府はパレスチナ自治区を取り囲む壁を建設している。この分離壁はベルリンの壁より3倍も高く、完成すると全長700キロメートルにも及ぶ。これは、ロンドンからチューリッヒまでの距離と同じだ。この分離壁は、国際法上では違法で、パレスチナを世界一大きな刑務所に変えた。
– バンクシー
バンクシーが「Balloon Debate」を分離壁にスプレーペイントする様子
次に、こちらの動画はバンクシーが分離壁に作品を残した時の映像だ。ちなみに、バンクシーは作品制作時に兵士に銃を向けられていたらしい。
2014, Girl with Balloon シリアバージョン
次は、シリアの内戦勃発から3年が経過した2014年3月。バンクシーは「Girl with Balloon」の少女をシリア難民の少女に変えた作品を制作。
このシリア人少女の作品は SNSで#withsyria というハッシュタグと共にシリア内戦の犠牲者への支援を求めるキャンペーンのために拡散された。
そして、この作品はパリのエッフェル塔やロンドンのトラファルガー広場など、世界の有名な観光地でプロジェクターで映し出された。
また、バンクシーは作品の発表に際して自身の公式ウェブサイトでこんな声明を出している。
2011年3月6日、シリアの街ダルーアで、反権威主義のグラフィティーを描いたことで、15人の子供が逮捕され、拷問された。15人の子供が拘束されたことに対する抗議がシリア国内の暴動の勃発に繋がり、シリア国内の反乱が内戦へ発展し、930万人の市民が家を失った。
バンクシー公式サイトから
このキャンペーンには英俳優のイドリス・エルバも参加。そして、#WithSyriaのハッシュタグと共にこんなYouTube動画も制作された。
バンクシー、自身の影響力を利用して2017年 英総選挙に介入?
また、英総選挙が行われた 6月8日の翌日2017年6月9日。バンクシーは赤い風船をユニオンジャックに変えた「Girl with Balloon」のリリースを発表。
こちらの限定エディション作品は完全に無料だが、作品の入手には1つだけ条件があった。
その条件とは、ノース・ブリストル、ブリストル・ウェスト、ノース・サマセット、ソーンベリー、キングスウッド、フィルトンこれら6つの選挙区に在住する有権者であること。
そして、応募条件は「保守党への反対票を投じたことを証明する投票用紙の写真をお送り頂ければ、後に無料の作品を郵送で送る」というものだった。
しかし、その数日後、バンクシーは自身の公式ウェブサイトで発売を予定していた作品画像と共に以下の声明を出した。
作品リコール
無料で作品を提供するなら、選挙結果を無効にします。と バンクシーは英国選挙管理委員会から警告を受けました。残念ですが、構想もよく練り切れてなく、法律的にもグレーなこのキャンペーンを中止することにしました。
最終的にユニオンジャックの「Girl with Balloon」の配布は幻となった。しかし、これはバンクシーがイギリスの選挙に介入しようとした象徴的なイベントになった。
Girl with Balloonをイギリス国民が一番好きなアート作品に選ばれる
同じく2017年の7月、サムスンが絵画のように壁に掛けられるサムスンの液晶テレビ「THE FRAME」の発売を記念して、イギリス人2000人を対象に「イギリスのアーティストの作品で一番好きな作品はどれ?」という人気投票が行われた。
イギリスを代表する19世紀の風景画家、ジョン・コンステイブル「乾草の車」や ウィリアム・ターナーの「解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号」を抑え、バンクシーの「Girl with Balloon」が堂々1位に選ばれた。
サザビーズ ・ロンドン(2018年)で「Girl with Balloon」1.5億円で落札直後にズタズタに破壊
2018年10月5日、英大手オークションハウス「サザビーズ・ロンドン」でオークションが開催。そして、額装済みのオリジナル作品「Girl with Balloon」がオークションに出品された。
「Girl with Balloon」はこの日のオークションの最後に出品された目玉作品だった。そして、約1億5000万円で落札直後に額縁に内蔵したシュレッダーが作動し始め、1.5億円の作品がズタズタにカットされた。最後、途中でシュレッダーが止まってしまったのはバンクシー 本人も予想外だったそうだ。
実際のオークション会場の様子がこちら。
この「Girl with Balloon」の破壊事件について詳しくはこちらのリンクから↓
えっ!まじで? バンクシーの作品「GIRL WITH BALLOON」が1億5千万円で落札直後、シュレッダーでビリビリに??
世界中のメディアを通じてこの騒動が拡散。また、日本でもバンクシーに興味のない人たちが彼を知るきっかけになった。この事件以降、バンクシー作品価格の上昇が加速していった。
歴史上、オークション中に作品を新しく作った人物がいただろうか...また、その作品の制作過程をSNSで世界中に発信した人がいただろうか.... この作品が美術史の1ページに刻まれることが間違い無いだろう。
2021年 あのシュレッダーの「Love is in the Bin」が過去最高の約29億円で落札
2021年10月14日、サザビーズ・ロンドンのオークションが開催。そして、バンクシー史上最も衝撃的な作品「Love is in the Bin」が出品された。
予想落札額が6〜9億円の所。なんと、約29億円で落札。バンクシーの作品としては史上最高額を叩き出した。
史上最高額の29億円で落札された「Love is in the Bin」について詳しくは下の記事から。
バンクシー あのシュレッダー作品「Love is in the Bin」が約29億円で落札、史上最高額を更新!
これまで「Girl with Balloon(風船と少女)」にはその時代、その土地に応じて新しいメッセージが吹き込まれ、バンクシーにより発信されてきた。しかし、今後も何か動きがあったときはこの記事もアップデートしていこうと思う。