2020年3月号の月刊雑誌「カーサ ブルータス (Casa BRUTUS)」がバンクシーを特集した。
ちなみに日本のメジャーな雑誌が、ここまで大々的かつ詳細にバンクシーに付いて取り上げたのはこれが初めてだったと思う。
そして、この特集で「バンクシーの作品落札額ベスト5」という内容が取り上げられた。しかし、これはおそらく2020年1月までに編集されたものだろう。また、既にこのベスト5が5回以上も入れ替わっている。
なので、これまでのベスト5と新しくランキングに入った5作品を合わせて、最新版(2023年11月時点)のTOP10をこの記事で紹介しようと思う。
*これからも頻繁に、このランキングは入れ替わるだろう。新しい作品がランクインすれば、またこの記事をアップデートする。なので、定期的にチェックして頂きたい。(現在10回目のアップデートが終了。)
1位 Love is in the Bin 29億円
- サイズ : 縦 101cm x 横 78cm x 奥行き18cm。
- 制作年:2006年, 2018年
- 技法:アクリル絵具、スプレーペイント
- サイン : あり
- エディション: 1/1 Original on Canvas
- Pest ControlのCOA付き
バンクシー作品の落札額ランキングの第1位は2021年10月14日にサザビーズ・ロンドンのオークションに出品された「Love is in the Bin」だ。
予想落札額が400万ポンド~600万ポンド(約6億円~9億円)。結果はその3倍を軽く越える約29億円で落札。
バンクシー好きの方には作品ついての説明は必要ないかもしれない。が、「えっそんな作品まだ知らない」という方のために、簡単に説明しようと思う。
2018年10月にサザビーズ・ロンドンが開催。このオークションでバンクシーのオリジナル作品「Girl with Balloon」が出品。
作品が約1.5億円で落札された直後、額装に内蔵されたシュレッダーが作動。そして、作品がビリビリに細断され、およそ半分の所でとまった。こうして生まれたのがこの「Love is in the Bin」だ。
この作品はおそらく美術史上、最も衝撃的に誕生した作品かもしれない。
「Love is in the Bin」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事がオススメ→えっ!まじで? Banksy「Girl with Balloon」1億5千万円で落札直後、シュレッダーに??
2位 Game Changer 25億円
- タイトル: Game Changer (ゲームチェンジャー)
- 制作年: 2020年
- サイズ:91cm x 91cm
- 技法: 油彩 on キャンバス
- サイン:あり(作品の右下)
- Pest ControlのCOA付き
2021年3月23日、オリジナル作品「Game Changer」がクリスティーズ・ロンドンのオークションに出品。
予想落札額が約3億7500万円~5億2500万円(250万ポンド~350万ポンド)だった。しかし、予想落札額の5倍以上の約25億円(16億7580万ポンド)で落札。
この「Game Changer」はバンクシーの歴代高額落札額ベスト2にランクインしている。
この作品の収益は全て作品が寄付されたサウサンプトン総合病院とイギリスの国民健康保険(NHS)の関連団体に寄付された。
「ゲームチャンジャー」について、もっと詳しく知りたい方はこちら→バンクシー コロナ禍のナースを描いた作品 「ゲームチェンジャー」が約25億円で落札。
3位 Sunflowers from Petrol Station 16億円
- タイトル: Sunflowers from Petrol Station
- 制作年: 2005年
- サイズ:102.6cm x 87.5cm
- 技法: 油彩 on キャンバス
- サイン:あり(作品の右下)
- Pest ControlのCOA付き
次にランキング第3位はゴッホのオマージュ作品「Sunflowers from Petrol Station」だ。2021年11月9日にクリスティーズ・ニューヨークで開催のオークションに出品。そして、この作品はゴッホの代表作「ひまわり」をオマージュしたものだ。しかも、出品者は英国のファッションデザイナー「ポール・スミス」氏だった。
予想落札額が約13億円~20億円の所(1200万ドル〜1800万ドル) 約16億円(1445万8000ドル)で落札。
この作品は2005年にロンドン・ノッティングヒルで開催されたエキシビション「Crude Oils」で展示された作品だ。
ちなみに「Crude Oils」について詳しくは、こちらの記事がオススメ→200匹の生きたネズミを展示したバンクシー・エキシビション「Crude Oils」2005。
4位 Devolved Parliament 13億円 - 1218万1424ドル
- 制作年: 2009年
- サイズ:276cm x 446cm (額装時)
- 技法:オイル on キャンバス
- サイン:あり
- Pest ControlのCOA付き
次に、4位はサルの議会こと「Devolved Parliament」がランクイン。2019年10月サザビーズのオークションで当時過去最高額の約13億円(£9,879,500)で落札。
この作品は2009年ブリストル美術館で開催されたエキシビション「Banksy vs Bristol Museum」で初めて展示された作品だ。
*「Banksy vs Bristol Museum」で展示された作品と、オークションに出品された作品の細部が実は違う。おそらく別に製作した作品なのだろう。しかし、今回はそのことについては触れないでおこう。
なぜ、サルの議会はここまで価格が上がったのか?
カーサブルータスの記事は、この作品が桁違いの約13億円で落札された理由について、こう書いていた。
ブレクジット(英国のEU離脱)で議会がもめていた2019年3月末、ブリストル・ミュージアムが2009年のバンクシー展の10周年を記念して作品を展示した際、「凋落した英国議会の今を予言した作品」として各方面から取り上げられたから。
しかし、ずっとバンクシー作品の市場を観察している僕にとって、実際は少し違うように見える。
もちろん、2009年に描いた過去最大サイズの作品が「10年後のブレクジットの混迷」を予言していたら、作品価値が上がるのは間違いない。
しかし、それだけで、2019年頃まで2億円に少し届かないくらいのが過去最高額だったのが、いきなり10億円越えで桁違いの価値が付くほど、アートの世界は甘くない。
では、なぜ、この作品が初めて10億円の大台を越え落札されたのだろう。
2018年10月、英サザビーズ・オークションが開催。ここでバンクシーの代表作「Girl with Balloon」が落札直後、額縁に内蔵されたシュレッダーでビリビリに細断された事件は世界中に衝撃を与えた。
この事件は、それまでバンクシー作品に興味がなかったピカソやダリなど超高額作品を購入する現代アートコレクター達にとってかなりの衝撃だっただろう。
この事件以降、現代アートコレクター達がバンクシーに本格的に目を付け始めた。さらに、2018年10月以降、高額作品を中心に集める現代アートコレクターや組織としてバンクシー作品を集める企業が参入することで、バンクシー作品に大量のマネーが流れ込んできた。
これが「Devolved Parliament」が10億円の大台を越える初めての作品になった大きな理由だろう。
5位 Love is in the Air 14億円 - 1209万3000ドル
- タイトル: Love is in the Air。
- 制作年: 2006年。
- サイズ:90cm x 90cm
- 技法: 油彩、スプレーペイントon キャンバス.
- サイン:あり
- Pest Control発行によるCOA付き
2021年5月12日、サザビーズ・ニューヨーク開催のオークションにオリジナルキャンバス作品「Love is in the Air」が出品。
予想落札額が300万ドル〜500万ドル。日本円にして3億3000万円〜5億5000万円の所。結果は予想をはるかに越える1209万3000ドル、日本円で約14億円で落札!
ちなみに日本円では、14億円で落札された5位の「Love is in the Air」が4位の「Devolved Parliament」の13億円より高いが、米ドルで比べると4位の「Devolved Parliament」が1218万1424ドル、5位の「Love is in the Air」が1209万3000ドルなので、こちらの「Love is in the Air」をベスト5位にしている。
4位「Devolved Parliament=1218万1424ドル」→5位「Love is in the Air=1209万3000ドル」。
歴史上初、仮想通貨での支払いが可能に
サザビーズ・ニューヨークは仮想通貨取引所「COINBASE」と連携。大手オークションハウスとしては歴史上初の試みで、バンクシーの「Love is in the Air」の落札時にビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨での支払いを認めた。
バンクシーの「Love is in the Air」が実物のアート作品落札の決済に仮想通貨での支払いを認めた歴史上初の作品となった。
6位 Banksquiat. Boy and Dog in Stop and Search 13.1億円
- タイトル: Banksquiat. Boy and Dog in Stop and Search
- 制作年: 2018年
- サイズ: 縦243.8cm x 横344.5cm (額装時)
- 技法:アクリル絵具、ワックスマーカー
- Pest ControlのCOA付き
- サイン: 直筆サイン入り
2023年5月17日、フィリップス・ニューヨークでオークションが開催。バンクシーの作品「Banksquiat. Boy and Dog in Stop and Serch」が出品された。
予想落札価格が800万ドル〜1200万ドルの所、972万4500ドルで落札。日本円にすると、約13億1000万円。
これはバスキアの作品「Boy and Dog in a Johnnypump」をオマージュした作品だ。
7位 Show Me the Monet 10億円
- タイトル: Show Me the Monet
- 制作年: 2005年
- サイズ: 縦143.1cm x 横143.4cm (額装時)
- 技法:油彩
- Pest ControlのCOA付き
2020年10月21日にサザビーズに出品。予想落札額300万〜500万ポンドに対して755万1600ポンド。日本円にして10億円越えの高額で落札された。
こちらの作品はクロード・モネの代表作「睡蓮」をオマージュしたものだ。そして、モネの日本の橋がある庭園にトラフィックコーンやショッピングカートが不法投棄されているシーンを描いている。
8位 Love is in the Air 9.2億円
- タイトル: Love is in the Air
- 制作年: 2006年
- サイズ: 縦90cm x 横90cm
- 技法:油彩、スプレーペイント on キャンバsy
- サイン:あり
- エディション: 13/15
- Pest ControlのCOA付き
2021年11月18日、サザビーズ・ニューヨークに出品された「Love is in the Air」は予想落札額400万ドル~600万ドル(4.6億~6.8億円)の所、807万7200ドル、日本円にすると、約9.2億円で落札。
ちなみにこの「Love is in the Air」は国内2つ目の大型バンクシー展「バンクシーって誰?展」にも展示されていた作品だ。
このバージョンの「Love is in the Air」はED15。つまり、限定15枚ある中の1枚の作品だ。しかし、もしこの「Love is in the Air」が世界に一枚しかない1/1のバージョンであれば、軽く10億円は越えていただろう。
9位 Forgive Us Our Trespassing 8.96億円
- タイトル: Forgive Us Our Trespassing
- 制作年: 2011年
- サイズ: 縦655cm x 横421cm
- 技法:スプレーペイント、マーカー on ウッドパネル
- サイン:あり
- Pest ControlのCOA付き
2020年10月6日に香港で開催されたサザビーズ・イブニングセールに出品された「Forgive Us Our Trespassing」は、予想落札価格が£1,600,000〜£3,200,000(約2.24億円〜4.48億円)のところ、£6,400,000(約8億9600万円)で落札。
同じタイトルで製作されたバージョンがいくつかあるが、こちらは2011年に「子供にアート作品の創作にもっと積極的に取り組んでもらうための」プロジェクトで、ロサンゼルスの学校の100名以上の生徒と一緒に作り上げた作品だ。
10位 Love is in the Air 8.5 億円
- タイトル: Love is in the Air
- 制作年: 2006年
- サイズ: 縦91.4cm x 横91.4cm
- 技法:油彩、スプレーペイント on キャンバス
- サイン:あり
- エディション: 5/15
- Pest ControlのCOA付き
2022年でトップ10にランクインしたのはこの作品のみ。今回9位にランクインしたのは「Love is in the Air」だ。
この作品は2022年4月、香港サザビーズに出品。まずは、予想落札額が4千万〜6千万香港ドルだったが。結果は、5107万3000香港ドルで落札。日本円にすると、約8.5億円だ。
今回「Love is in the Air」が9位にランクイン。その結果、10作品中3点が「Love is in the Air」になった。「Love is in the Air」の圧倒的な人気が証明された。ちなみに、5位の「Love is in the Air」とこちらは少しサイズが違う。
ここからは番外編....
11位 Trolley Hunters 7.6 億円
- 制作年: 2006年
- サイズ:137cm x 214cm
- 技法:オイル& エマルジョン on キャンバス
- サイン:あり
- Pest ControlのCOA付き
10位の「Love is in the Air」と同じく、2021年11月18日に開催されたサザビーズ・ニューヨークに出品されたこの作品は予想落札額が500万ドル~700万ドルのところ、669万8400ドル。日本円にすると、約7.6億円で落札された。
世界に1枚しかないオリジナル作品... 縦1.37メートル x 横2.14メートルもある巨大な作品... 2006年、LAでゲリラ的に開催されたエキシビション「Barely Legal」に展示された作品ということもあり、ここまで高額で落札されたのであろう。
12位 Subject to Availability 7億円
- 制作年: 2009-2010年
- サイズ:159.5cm x 220.3cm
- 技法:オイル on キャンバス
- サイン:あり
- Pest ControlのCOA付き
この作品は2021年6月30日開催のクリスティーズ・ロンドンに出品。
予想落札額300万ポンド~500万ポンド。日本円にして4.5億円~7.5億円)のところ。最終的に、458万2500ポンドで落札。これは、日本円にして約7億円だ。
こちらの作品は1890年にドイツ系アメリカ人画家「アルバート・ビアシュタット」がワシントン州にある標高4392メートルのレーニア山を描いた絵の上にバンクシーがコラージュした作品だ。
「Subject to Availability」は2009年に制作。2009年にバンクシーの故郷ブリストルで開催されたエキシビション「Banksy vs Bristol Museum」に展示された作品だ。
13位 Original Concept for Barely Legal Poster 4億円
- タイトル: Original Concept for Barely Legal Poster (after Demi Moore)
- 制作年: 2006年
- サイズ: 縦213cm x 横137.5cm
- 技法:スプレーペイント、エマルジョン on キャンバス
- サイン:--
- エディション: 1/1
- Pest ControlのCOA付き
この作品は2021年3月25日に開催されたサザビーズ・ロンドンのオークションに出品。
予想落札価格は200万ポンド~300万ポンド。日本円にすると、267万7000ポンド約4億円で落札。
デミ・ムーアの妊婦のセミヌード写真へのオマージュ
こちらはアメリカの月刊誌ヴァニティ・フェアの1991年8月号の表紙を飾った、伝説的な写真家アニー・リーボヴィッツの撮影によるあまりにも有名なデミ・ムーアの妊婦のセミヌード写真をベースにした作品だ。
デミ・ムーアのセミヌード。そして、デミ・ムーアの顔が目がぎょろっと出たおサルに変わり、長い髪のカツラをかぶっている。
タバコを口にくわえているポーズ以外は手ブラや、中指にはめた指輪などはデミ・ムーアのオリジナルと変わらない。
直近5年のバンクシーに関する主な事件やニュース....
- 2018年10月、英サザビーズで約1.5億円の作品が落札直後にビリビリに裁断...
- 2019年小池都知事のツイートで「バンクシー東京のネズミ」が日本中で話題に...
- 2020年3月号のカーサ ブルータスでバンクシー の特集記事が大々的に組まれる。
- 2020年3月15日から横浜アソビルで日本初大型バンクシー展「バンクシー展 天才か反逆者か」が開催。
- 2021年3月、サウサンプトン総合病院に寄付した作品「Game Changer」が、過去最高額の約25億円で落札。
- 2021年8月、国内2つ目の大型バンクシー展「バンクシーって誰?」展が東京で開催。
- 2021年10月、落札直後シュレッダーでビリビリに破れた作品「Love is in the Bin」が「Game Changer」の25億円を抜き去り、過去最高額の29億円で落札。
- 2023年5月、バンクシー「Banksquiat. Boy and Dog in Stop and Search」が約13.1億円で落札。
コロナ禍でバンクシー作品への評価、人気ともに爆伸びした。一方、日本では日本初大型バンクシー展が横浜→大阪→名古屋→福岡→広島→東京と開催されることにより、日本でのバンクシー人気も爆発。
直近5年の主な出来事だけを見ても、色んなニュースや事件、イベントが目白押しだ。
バンクシー作品コレクターの移ろい...
これまで「バンクシー作品を購入したい」という問い合わせは長年のアートコレクターが中心だった。
しかし、ここ数年は、日本初の大型バンクシー展「バンクシー展 天才か反逆者か」や「バンクシーって誰?展」のおかげで、色んな業種の方や、今まであまりアートに興味が無く最近アートを収集し始めた人まで、問い合わせをする人のバリエーションが一気に増えた。
2020年のコロナ禍で日本でもバンクシー人気が爆発。次に2021年も年末まで価格が情報。しかし、2022年に入って価格が大幅に調整。2023年は調整が続きながらも、いつかまた上昇するかも知れない。